シロアリの女王の生態を徹底解説！女王アリの駆除は、巣の根絶につながるのか

シロアリの巣には「女王」と呼ばれる、産卵が役割のシロアリが最低1匹は存在します。「女王アリさえ駆除すればシロアリの巣は壊滅する」と考えられがちですが、それは誤りです。

シロアリの生態は非常に複雑で、一匹の女王アリがいなくなっても、別の女王アリが現れる仕組みになっています。

本記事では、女王アリの役割、シロアリ社会の仕組み、代表的なシロアリ種の女王アリの特徴を詳しく解説します。シロアリの生態について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。

シロアリの女王の使命は「できるだけ多くの卵を産むこと」

まずは、シロアリの女王の見た目や役割など基本的な情報をお伝えします。

見た目の特徴

シロアリの女王は成長段階によって見た目が異なります。まず最初は背面に羽が生えた、いわゆる「羽アリ」の姿に変化します。

生まれた瞬間は他のシロアリと大差ありませんが、成長につれて羽が生え、新しい巣をつくりに飛び立つ準備をします。

日本で住宅に被害をもたらすシロアリは主に4種類で、ヤマトシロアリ、イエシロアリ、ダイコクシロアリ、アメリカカンザイシロアリです。それぞれ見た目が微妙に異なります。

新しい場所に到着すると羽は抜け落ち、今度は卵を産むのに最適な姿に変化します。このときの姿は種類によって大きく異なります。

ヤマトシロアリとイエシロアリの場合、腹部が大きく膨らみ、アリの体にイモムシをくっつけたような見た目です。イエシロアリの場合は35〜40mm程度まで大きくなり、一般的なシロアリと比べて5~10倍ほど差がつきます。

一方、アメリカカンザイシロアリとダイコクシロアリは、それほど大きく変化しません。この差は産む卵の数に関係しています。

ヤマトシロアリやイエシロアリは毎日数十から数百の卵を産みますが、アメリカカンザイシロアリやダイコクシロアリは数個程度です。そのため、産卵特化の形態になる必要がないのです。

女王アリの役割

シロアリの女王は季節に関係なく1年中、毎日卵を産み続けます。産卵数は種によって異なり、もっとも多くの卵を産むイエシロアリは毎日300個以上を産み、その数は年間10万個にも達します。

シロアリの卵は、1mm以下の楕円形で白っぽい見た目です。巣の奥で大事に守られているため、普段の生活で見かけることはほぼありません。シロアリ被害にあっている柱を割るなどして、巣の中をのぞくと見ることができます。

シロアリ駆除のためには、女王アリだけを狙っても意味がない

卵を産む女王アリさえ駆除できれば巣ごと壊滅できるか、というとそのようなことはありません。そもそも、女王アリは土や木材の奥深くにいるため、ピンポイントで探し当てることは困難です。

女王アリを見つけたとしても、一匹や二匹の駆除では意味がありません。女王アリがいなくなっても巣を維持する仕組みがあるからです。その仕組みはシロアリの種類ごとに異なるため、後ほど詳しく説明します。

仮にピンポイントで狙えるとしたら、女王アリよりも王アリを駆除した方がいいでしょう。王アリは巣に1匹しかおらず、代わりのアリも生まれないからです。とはいえ、ピンポイントで女王アリや王アリを駆除する方法はまだ確立されていません。

現在は、薬剤を撒いて住宅に侵入させないバリア工法と、毒餌で巣ごと駆除するベイト工法の2つの方法が一般的です。

女王アリを支えるシロアリ社会の仕組み

シロアリは社会性昆虫と呼ばれる分類に属します。巣全体で階級ごとに役割分担をし、集団生活をしながら生きています。階級は大きく3つです。

生殖階級

生殖階級とは繁殖に専念する階級のことで、女王アリと王アリが分類されます。両者はそれぞれ、必ず巣に1匹ずつは存在します。

クロアリの場合、王は女王との交尾後に死んでしまい、その後は女王だけで卵を産み続ける仕組みです。一方シロアリの場合、王は常に女王アリと一緒に生活をし、交尾を繰り返します。

また、女王アリと王アリのどちらかが死んだ場合や巣が分断された場合に備えて、代わりとなるシロアリ（二次生殖虫）が常に待機しています。

女王アリの寿命は他のシロアリに比べて長いです。職蟻（働きアリ）の寿命は5年ほどですが、女王アリは10年以上生き続けます。一般的な昆虫の寿命が数ヶ月〜数年であることを考えると、脅威的な長寿と言えます。

兵蟻階級

兵蟻階級は、外敵からの防衛を担当します。女王アリを含め、巣全体を外敵から守ることが使命で、特徴的な大顎は外敵を攻撃するために使い、木材をかじることはできません。

そのため自分で食料を調達できず、職蟻からの口移しや糞食により栄養を摂取します。

職蟻階級

職蟻階級はいわゆる働きアリと呼ばれる階級で、餌の採取運搬、巣や蟻道の構築・修理・清掃、生殖階級や幼虫・兵蟻の世話など、巣の維持に関わるあらゆる作業を担当します。

胸部背面に「翅芽」と呼ばれる、羽が生えるための穴をもつ個体は「ニンフ」と呼ばれ、将来は有翅虫（羽アリ）になります。

有翅虫は、巣がある程度大きくなると集団で別の場所へ飛び立ち、新天地に到着した有翅虫のなかから新しい女王アリと王が生まれ、また一から巣をつくる仕組みです。

ヤマトシロアリの女王アリ

ヤマトシロアリは北海道北部をのぞく、日本全土に分布しています。北限は北海道名寄市です。女王アリの見た目の特徴や詳しい生態について解説します。

見た目の特徴

ヤマトシロアリの女王アリは羽が抜けた後、腹部が大きく膨らみ、全体的に白〜淡色になります。体長は15mm以上で、頭部は小さく、腹部が寸胴でイモムシのような形をしています。

繁殖の仕方｜女王アリが自分のクローンを生み出す

ヤマトシロアリが一日に産む卵の数は25個程度と、イエシロアリに比べると少ないですが、一方で、ヤマトシロアリの女王は二次女王（副女王）を産み、王アリは二次女王とも交配を行います。

このため、1匹の女王アリが産む卵の数は限られているものの、二次女王が増えるにつれて産卵数は倍々で増えるのです。

二次女王は、王アリとの交配で生まれるように見えますが、実は女王アリの遺伝子だけ（単為生殖）で生まれており、子どもというよりはクローンに近い存在です。

そのため、巣のなかで近親交配は起こらず遺伝子劣化が起こらない仕組みになっています。

住宅にもたらす被害

ヤマトシロアリは、日本国内で報告されている被害件数がもっとも多く、シロアリ被害全体の90%以上を占めています。

硬く高密度な木材より、柔らかく低密度な木材を好み、とくに被害が大きいのは、マツ、モミ、セン、ホワイトウッド、ブナを素材とする木材です。

また、湿っている木材や、近くに水場のある木材の被害が大きくなる傾向があります。これは、乾燥に弱い性質に由来します。

ヤマトシロアリは、一日水が摂取できないだけで正常な活動ができなくなるため、なるべく水分の取れる場所で食料となる木材を探すのです。

昔は風呂場、洗面所、台所などの水回りに被害が集中していましたが、最近はヤマトシロアリの個体数増加にともなって、玄関や建物基礎部分の被害率が上がっています。床下に放置された資材が被害にあっている例が多数報告されています。

イエシロアリの女王アリ

イエシロアリは千葉県以西の海岸線に沿った温暖な地域と小笠原諸島に分布しています。女王アリの見た目の特徴や詳しい生態について解説します。

見た目の特徴

イエシロアリの女王はシロアリのなかでも最大級で、体長30〜40mmになります。白色で、腹部が縦に大きく膨らみ、働きアリの10倍近いサイズになることもあります。

繁殖の仕方｜女王アリの代わりが常にスタンバイ

イエシロアリの女王アリは一日に産む卵の数が300個以上と非常に多く、高い産卵能力を持っています。一方で、卵巣が極度に発達しており、自力では動けません。

女王が死亡もしくは傷ついた場合、代わりとなるシロアリ（二次生殖虫）が生まれます。代わりとなるシロアリは、幼虫から有翅虫（羽アリ）に変化する段階で「生殖腺」と呼ばれる部位が発達し、女王アリへと成長するのです。

女王アリの老齢化で産卵数が減少した場合や巣が大きくなりすぎた場合も二次生殖虫は生まれます。

住宅にもたらす被害

イエシロアリは、日本国内で報告されている被害件数が2番目多く、シロアリ被害全体の7〜8%程度を占めています。

ヤマトシロアリと同様、硬い高密度の木材より、柔らかい低密度の木材を好む傾向があり、とくに被害が大きいのは、マツ、モミ、セン、ホワイトウッド、ブナなどです。

イエシロアリはとくに巨大な巣をつくり、最大半径100mにも及ぶ範囲で被害をもたらします。数件の家を同時に侵食していることも多く見られます。

ヤマトシロアリと同様に乾燥に弱いため、水場の近くに巣がつくられることが多い傾向があります。

アメリカカンザイシロアリの女王アリ

アメリカカンザイシロアリは、宮城県仙台市から沖縄本島までの多くの都府県に点在しています。女王アリの見た目の特徴や詳しい生態について解説します。

見た目の特徴

アメリカカンザイシロアリの女王アリは体長約10mmで、他種のシロアリより小さいのが特徴です。濃褐色で、頭部と胴体にくびれがあり、腹部はやや膨らみますがヤマトシロアリやイエシロアリほどではありません。

繁殖の仕方｜すべてのシロアリが女王アリに変化できる

アメリカカンザイシロアリの女王アリが一日に産む卵の数は20~30個程度で、イエシロアリに比べると少ないことが特徴です。

これは、土の中ではなく柱やテーブルなど木材の中をくり抜いて巣をつくる習性に由来します。一つの巨大な巣をつくるのではなく、フットワーク軽く移動しながら次々と新しい場所に巣をつくるため、一度に大量の卵を産む必要はないのです。

特徴的なのは、職蟻（働きアリ）がどの個体であっても、女王アリに変化できることです。イエシロアリも女王アリに何かあったときは代わりのアリ（二次生殖虫）が生まれますが、アメリカカンザイシロアリの場合は、成長した職蟻であっても女王アリに変化できます。

住宅にもたらす被害

アメリカカンザイシロアリは分布が限られており、日本国内での被害件数はシロアリ全体で0.3%以下です。

ただ、報告されている被害が少ないだけで、実は気づかないうちに被害にあっている建物は多いのではと言われています。土の中ではなく木材の中に直接巣をつくり、食事から産卵まですべての活動を木材の中で完結させるため、発見されにくいのです。

被害場所に関する調査によると、屋根裏の小屋組部材39%、外構部材23%、室内部材20%、床下部材10%、家具3%となっています。

ダイコクシロアリの女王アリ

ダイコクシロアリは奄美大島以南と小笠原諸島に分布しています。女王アリの見た目の特徴や詳しい生態について解説します。

見た目の特徴

ダイコクシロアリの女王アリは4〜5mmと小型で、腹部が膨らむものの全体的に小さいのが特徴です。白色〜淡色で頭部は丸く、他種ほど目立ちません。

繁殖の仕方｜アメリカカンザイシロアリと同様の特徴

ダイコクシロアリの女王アリが一日に産む卵の数は20~30個程度で、イエシロアリやヤマトシロアリに比べると少ないです。

アメリカカンザイシロアリと同様、木材の中をくり抜いて巣をつくり、職蟻（働きアリ）がどの個体でも女王アリに変化できる特徴があります。

ただし、ダイコクシロアリの場合、女王アリが亡くなった場合は職蟻の40%が一斉に生殖階級へと変化することが特徴です。巣の中で生殖階級同士での争いが起こり、最終的に生き残った1組が女王アリ・王アリとして君臨します。

複数の巣が融合することもあり、その場合も生殖階級同士で争いが起こり、生き残った個体が新しい巣の女王アリ・王アリとなります。

住宅にもたらす被害

ダイコクシロアリもアメリカカンザイシロアリ同様、分布が限られており、日本国内での被害件数はシロアリ全体で0.3%以下です。

ただし、アメリカカンザイシロアリと同じく発見の難しさがあり、被害として報告されていない件数が多い可能性があります。

被害場所も屋根裏の小屋組部材など、アメリカカンザイシロアリと同様の場所でよく見られます。家具類の侵食も多く、ピアノ、ステレオ、机、タンス、鏡台での被害も多く報告されています。

まとめ

シロアリの女王は巣の中心的な存在ではあるものの、単なる役割にすぎず、代わりはいくらでもいます。

そのため、女王アリだけを狙った駆除では根本的な解決になりません。シロアリ被害から家を守るには、「家に入らせないようにする」「巣ごと根絶する」しかないのが現状です。中途半端な対策では失敗し、シロアリ被害を広げてしまう可能性もあります。

シロアリ駆除は専門的な知識と経験が必要な作業です。効果的な駆除を行うためには、まず専門業者に相談することをおすすめします。

リフォームや建て替えなど最悪の事態を防ぐためにも、家の周りでシロアリを見かけた場合、まずはシロアリ駆除業者に無料の現地調査を依頼しましょう。